駅前や駅舎の中で突然知らない人から「新人研修で100人の方と名刺交換をしています!名刺を交換してください!」と声を掛けられることがあります。
先に述べるとこれは単なる名刺交換の練習ではなく、渡した名刺の情報を流用して、後に職場や自宅に営業の電話が掛かってくるという詐欺行為なので、安易に名刺交換をすることはおすすめしません。
ただ、詐欺の部分を除いたとしても、この研修方法には問題があると筆者は思っています。
筆者は最初に就職した福祉事業所では、研修は全く受けず、日々の業務の中で体で仕事を覚えていくだけでした。
業務に係る最低限の知識さえあれば起こさないようなミスをたくさん経験したので、研修には意味があると思っています。
結果的に、使えない新人だ→邪魔だ→いらない→追い出して次の人を雇えばいいという方式でいじめ倒され、著しい病状の悪化の上自己都合退職に追いやられたので、余裕がない職場であっても、業務研修は人的資源保全のためにも不可欠です。
上記の名刺交換をさせる会社はその点において研修をさせる分若干マシではあるのですが、手法に問題がありすぎます。
まず、研修というのは、社員・職員にどんな能力を付与したいか決めたうえで、その能力の付与が担保できるプログラムと講師を用いて構造的に行わなければ、正しく作用しません。
知らない人との名刺交換で得たい能力はおそらく、初対面の相手に臆さず商談を持ち掛けられるようになる、といったものなのでしょうが、相手がただの通行人では得られる効果のバラツキが大きすぎます。
そして、何より研修は最低限、組織側が会場・プログラム・講師を費用負担して用意する責任があります。
駅という、鉄道会社が自己負担で運営している施設を無断で使用して研修を行ってはいけません。
鉄道会社には、この施設で研修を行いたい旨申し入れ、貸与の許可を得たうえで使用料を納付します。
そして、名刺交換の練習相手たる通行人の筆者は講師ということになりますので、筆者に対して正式な講師依頼を行い、講師謝金を払ったうえで行うべきです。
社会資源をこっそりタダで使って目的を達成しようとする者は「フリーライダー」と呼ばれ、多くの場合当該社会資源に不利益を還元したり、リソースをバカ食いしたりします。
フリーライダーの存在は社会福祉全般の敵となりますが、この辺りは別記事で述べたいと思います。
ちなみに本稿の場合は、駅という公共の空間で駅の利用客に詐欺まがいの行為を行っており、駅を開設して運営している鉄道会社の正当な営利活動を侵害しています。
講師役の通行人にも講師謝金を払っていません。
筆者の前職は上述のとおり、まったく研修や業務説明をせずに新人を現場に放り出し、その至らない点を糾弾して、最終的には「役に立たないから捨てよう」とばかりにハラスメントによって退職に追い込むようなところでした。
福祉業界は長い不況の間、他業界から人材の流入が多かったため、人材を「要らなければ捨てる」という風に扱う風土が定着していました。
ただしこれは福祉業界に限ったことではなく、その他の業界でも新人に無理をさせ、無理によって擦り切れたら捨てるということが行われています。
他の事業者が設置・運営する駅や通行人にフリーライドして詐欺まがいの研修を行う企業はもってのほかですが、研修すら実施せずに人材を育てようとせず、雇った人をそのまま使い捨てようとする事業者も同じくらい罪深いと思います。
少子高齢化社会の日本において、人材は有限の資源です。
自社で能力開発・向上を行いながら、大切に育てて使っていかなければなりません。
どんな零細企業であっても、人を育てずに使って、要らなくなったら捨てるというような人事を行ってはいけないのです。
営利法人は営利事業のためにはある程度利己的な行動を取らなければなりません。
ただし、「人材を大切に使う」ことは、人を雇う組織にとって非常に重要な倫理であり、少子高齢化がますます進む現代日本において、さらに重視していかなければなりません。
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