僕自身のひきこもり生活は、けっこう悲惨なものでした。
一般的な「ひきこもり当事者像」のイメージの中でも、割りと重症例の類いだったと思います。
・昼夜逆転
当たり前のように、昼夜逆転生活でした。
早い日なら朝の10時か11時に目覚め、何かしら適当に、菓子パン等を食べ、昼過ぎくらいまでぐったりと過ごし、うっかり昼寝をするともう夕方....
「今日も何も出来なかった」と悔やみ、少しだけ外を散策して夕食を食べ、深夜までそのままダラダラ過ごします。
夜中に見始めたネットややり始めたゲームを何となく切り上げ損ねていると、いつの間にか午前3時とか4時になっている....
そのあと布団に入ってもすぐには寝付けず、やっと眠ったら次はもう昼前か、遅ければもう午後....
そんな感じでした。
・来客があれば息を潜める
時折来客があると、いないフリをして息を潜めます。
玄関の靴を隠し、リビングからも生活の痕跡を消します。
一度、来客の時に家族が僕の私物を隠したとき、「そうだよな、自分は日中いると不自然な人間なんだよな」と妙に納得し、それ以来自主的にそうするようになりました。
たまの来客なら都度の対応でも良いのですが、祖父の訪問リハビリのPTさんやヘルパーさんは毎週複数回、しかも割りと長時間いるので苦労しました。
くしゃみやおならが出そうなときは、必死で堪えていました。寝返りも、僕の巨体でベッドが一瞬軋むので、できるだけしません。
それでも、迂闊にベッドからものを落としたり、くしゃみをしたことも何度かあるので、PTさんやヘルパーさんは気付いていたのではないかとも思います。
祖父が吸わないタバコの臭いもしただろうし。
明らか気配があるのに音がしない、そして介護保険の書類上は誰もいないはずの2階の部屋は、さぞ不気味だっただろうと思います。
・日中はPCとラジオ
・登下校の小学生の声で凹む
家のすぐ横の道が通学路だったので、登下校の時間には小学生たちの明るい声が響きます。これがとても辛かったです。
朝は僕が寝ているので、そんなに遭遇しません。夕方はよく聞こえました。
布団の中の自分と通学路の小学生を対比してしまい、絶望的な気持ちに駆られました。
彼らは朝8時過ぎから小学校に集合し、時間通りに規律正しく行動し、勉強し、さらに休憩時間は遊具やボールで遊び、7時間あまりに渡る集団生活を終えてなお、あんなに元気なのです。
私はそもそも布団から出ることもできません。定時に自宅外のどこかに集合するなど、到底不可能です。
もし誰かから「小学校からやり直せ!」と言われたとしても、小学生のレベルには全くついていけそうにありません。
保育園ですら到底無理そうです。定時に起きて登園したり、集団生活をしたり、運動したり、時間を守って行動したり....全てが保育園児未満まで低下していました。
そして自分は30歳が見えてきているのに、彼らはまだ思春期すら始まっておらず、無限の未来があるのです。
・部屋は足の踏み場もない
片付ける気力が無いので、当然のごとく部屋はぐちゃぐちゃになります。
本やマンガはそもそも容量オーバーで本棚から溢れていますし、枕元には平積み状態です。
読み終わった雑誌やフリーペーパー等は床に置かれ、踏まれては折り目がついたりちぎれたりしながら、ときには裸足の足の裏に引っ付いて数十cm 移動したりもします。
メモ等の紙片や、本やDVDを買うと付いてくる小さいチラシとかも同様の動きをします。
いつの間にか外れた本の帯や病院の診療明細や薬紙、日常のレシートもそんな感じ。
床に置かれたり落ちたりした紙片が踏まれたり蹴られたり、足の裏に引っ付いたりしながら徐々に細かくなり、隙間なく床に積もっていきます。
太平洋ゴミベルトとかに似たメカニズムなのかもしれません。
あとは、僕は小さい頃から慢性鼻炎で、ティッシュを常時大量に使うのですが、ベッドにいるときなどは一時的に丸めた状態でストックし、一括でゴミ箱に入れますが、ゴミ箱に至るまでに落伍するティッシュゴミが多く、そういったものも床を埋めていきます。
四畳半の部屋でしたが、コンセントの差し込みが1ヶ所しかなく、延長コードを使って部屋中のものに給電していたので、部屋の中心にタップがあり、そこから放射線状に電源ケーブルや更なる延長ケーブルが伸びていました。
また当時はBluetoothが普及しておらず、PC関連機器のケーブルも多数床の上を這っていました。
その他、酒ビンやペットボトルも多数転がっていました。
外から買ってきて、部屋に着くなりベッドで力尽きたため忘れ去られたお菓子が、ビニール袋に入ったまま腐敗していたこともありました。
それらの上に、全体的にうっすらと降り積もったホコリと、それに染み込んでいるタバコのヤニ。
縦横無尽に走る電源ケーブルの上に降り積もるゴミやホコリや丸めたティッシュ....よく火事にならなかったものです。
・布団は茶色
ひきこもりなので当然布団は万年床。そして万年床の上に、日常横たわって過ごすことがほとんどだったため、布団がどんどんよごれました。
加えて、元から汗かきなのに、太ったことでさらに汗をかくようになりました。悪夢を見ることも多く、そんなときは冬でも布団はびしゃびしゃです。
さらに、体調が悪いときは何日も入浴しないこともありました。
布団は家畜のような異臭を放ち、元の色が分からないほど茶色く染まりました。「黄ばみ」の最終形態です。
ごくたまに思い立って布団を干すと、自分では「我ながら布団を干すなんて殊勝過ぎる」と思ったりしたのですが、家族からは「恥ずかしいから汚い布団をベランダに干さないでほしい」と苦言を呈される始末でした。
さりとて、新しい布団を買うお金もなく、そもそも布団をどうやって捨てたらいいのか分からなかったので、最終的に近所のお店で焦げ茶色の掛け布団カバーを買いました。
これなら確かに、どれだけ黄ばんでも目立ちませんが、果たして本当に合理的な選択と言えるか疑問です。
・体重は100kg
日頃全く運動せず、ほとんど出歩きもせず、しかもやりきれない気持ちや将来への不安、現実への恐怖から、食べることに逃げていました。
白米を頬張り、飲み込む瞬間は幸福感があり、現実をほんの一瞬忘れられました。
お陰で体重は100kg。車にのればシートベルトが腹に埋没し、たまに遠くまで歩けば足の裏に水膨れや血豆ができ、安物の靴はすぐに壊れました。
ちなみに、もちろんお金はないので、靴は壊れても履き続けます。雨の日はいつも靴の中に路面の雨水が浸潤します。ギリギリ中破状態で履いていた靴が出先で完全に崩壊し、裸足同然で靴屋に駆け込んだことも。
・尿はペットボトルに
僕は用事があればまれに外出もしましたし、家族とも完全にシャットアウトの状態ではありませんでした。夕食時などは、一緒に過ごしました。
ただ、食事や外出以外で家族と顔を合わせるのが億劫というか、怖いというか、就労関連の面倒くさいこと言われるのではないかといつも恐れていたので、接触は最低限に留めていました。
階下に下りると家族の誰かしらと遭遇する危険があるときは、ペットボトルに用を足していました。
夏などは1.5Lのペットボトルのジュースを際限なく飲んでいたので、ベッド下等に空のペットボトルが豊富に備蓄されていました。逆に、時分ではペットボトルのゴミだしの方法が分からなかったのと、家族に頼むと「こんなにジュースを飲んだら身体に悪い」とジュースを制限される恐れがあったので、隠匿しておく必要がありました。
深夜にこっそりトイレに行き、中身を捨てます。
使い始めるまで知らなかったのですが、尿を容器に貯めて放置すると尿石という結晶が容器内壁に発生します。
尿に含まれているカルシウムイオンが、アンモニア等の他の成分を巻き込みながら結晶化したもので、茶色くて臭くて、水で濯いでも落ちません。
斯くして、絶対家族に処分を頼めないペットボトルが発生してしまいました。
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