入寮型施設を頼る親の心理

筆者自身は入寮型の施設とは縁はありませんでしたが、ひきこもり支援を謳う事業者の中には、当事者に合宿生活をさせながら支援を行うことをメインの手法として用いるものが多くあります。

筆者は「こういうところに入れられると辛いだろうな」とは思いつつ、幸いにもついに入寮させられることはありませんでしたが、もしかしたら家族は依頼を検討していたかもしれません。


入寮型の施設自体にも様々な側面があり、善良な事業者も悪徳事業者もありますので、ここではその是非を議論しませんが、入寮型の施設を頼る親の心理については、少し考察しておく必要があります。

基本的に、入寮型の支援から得られるベネフィットは、当事者よりは親の側にあります。

端的に言えば、親は「解決した気分」に浸れるのです。


親からしてみれば、当事者が目の前に居なくなることで、「子どもがひきこもり状態である」という出口の見えない問題を意識することから解放されます。


ただし、単に親と当事者が会わない状況であれば、自主的な別居でも達成できます。

ポイントは、親から見て「当事者が目の前でひきこもっている状態でなくなり、支援事業者の下で順調に回復している可能性がある」と感じられることです。


しかし、これは見かけの因果律で、当事者が目の前にいないからといって、すべてがうまくいっているとは限りません。

当事者は慣れない環境での集団生活と性急な就労訓練を迫られ、体調を崩す可能性もありますし、うつ状態や不眠に陥ることも考えられます。


2019年には、実際に収容型支援施設の支援を受けた男性が、職場への定着に失敗し、一人暮らし中に餓死するという痛ましい事件もありました。

この例では、就労支援と生活の構築に係る支援が不適切であったことが強く疑われます。


本当に大切なのは言うまでもなく、親ではなく本人が安心して自立に向けて動いていけることです。


筆者もひきこもり状態の間は、両親には随分不安な思いをさせたとは思いますが、それであっても、自分のペースで社会復帰できたことは非常にプラスの意味があったと感じています。

加えて、親の側が「親よりも本人の安心を重視したい」と思って当事者に接することで、その気持ちが当事者にも伝わり、自分のペースで社会復帰に向けて動くための一助になるのではないかと思います。

帰ってきたひきこもり

不登校・留年・中退・長期ひきこもりを経て、35歳で準公務員に受かり、二児の父になったはなし。