デイケアに通ったときのこと

筆者は断続的に5年ほどアルバイトをしましたが、基本的には5~6時間×週3~4日くらいのペースだったので、独立して生計を立てるには足りず、30歳くらいまで実家からの援助に頼っていました。


ここから、8時間×週5日のペースで働くには大きなハードルを感じており、「一生不可能なんじゃないか」とすら思っていました。


しかし、結婚を考え始めていたこともあり、今度は就労だけではなく就職しようと決めたので、このハードルを越えなければならなくなりました。

そして、本格的に長時間働く訓練のために通ったのが、精神科のデイケアでした。


精神科デイケアに行ったことがある方とない方がおられるのと、デイケアに対するイメージもそれぞれだと思いますが、全くイメージがわかない方のためにざっと一言で説明すると、午前から夕方にかけて昼食を挟んでいくつかのプログラムをうけながら過ごす場です。

参加するプログラムによっては、午前だけ、午後だけといった場合もあるかと思います。

プログラムの中身は実施している病院により本当に様々です。

SSTやロールプレイといった社会訓練に力を入れているところもありますし、絵画や歌やスポーツといったメニューがメインのところもあります。


筆者は【プレワーク支援】が充実しているデイを選んで通いました。

リワーク支援(休職中の人が復職に備えるコース)と共通のプログラムを受けることができたので、就職に向けて無理なく体を慣らすことができたように思います。

リラックスできるプログラムが多いデイケアでは、「遊んでいるだけのように思えて、張り合いややり甲斐がない。役に立っているかわからない。つまらない。」と感じる方もいます。

そういった場合には、参加プログラムや開催している病院を変えることも考えたほうが良いです。お世話になったコースを辞めるのは心苦しさもありますが、あくまで手段として割り切って利用したほうが、就職には近道だと思います。

筆者も、近所にはプレワーク支援を行っている病院がなかったので、少し離れた病院まで電車とバスで通いました。

時間をかけて通所するのは通勤の練習みたいで、案外やり甲斐がありました。


まず、第一に精神科デイケアが役立ったのは、【毎日朝の一定の時刻に遅刻せずに通所して、一定時間その場拘束される】という習慣づくりについてでした。

一般的な日本社会においては、幼稚園や小学校からさも当然のようにこの習慣を身につけさせられるはずですが、長期にわたりひきこもり状態に陥ると、これがなかなかできなくなってしまい、社会参加へのハードルになりがちです。

筆者も、まさしくここで苦しんでいました。「幼児でも、小学生でも朝から数時間集中して何かに取り組んでいられるのに、僕はそんなこともできない」と自分を責めたほどです。

なので、まずはデイケアの内容云々より、【遅刻・早退をせずにちゃんと通うこと】を最重要課として通所しました。


それから、非常に印象に残っているのが、【真剣に取り組む】ということでした。

プレワーク支援のデイケアとはいえ、仕事をしているわけではなく、社会訓練以外はレクのプログラムも多く入っていました。

しかし、一緒に参加している、特にリワーク支援のコースのメンバーは、元々バリバリの企業戦士で、レクへの参加態度も真剣そのものでした。

バリバリ頑張りすぎたために精神科デイケアに通っているような方々なので、この参加態度も当然なのかもしれません。

ヒップホップで体を動かすプログラムでは、企業戦士たちはみな一様に、真剣に振り付けを覚えてキビキビと踊り、遠足ではコース選定やおやつ購入、タイムキープ等を適切に分業しながら、企業ガバナンスを発揮していました。

切ったり貼ったりで共同作品を作る、小学校の図工のようなプログラムですら企画会議を催し、作品の趣旨と目標と落とし所を真剣に議論していました。

そして、のりやハサミで作品を作りながら、その出来栄えに真剣に一喜一憂していました。

遊びみたいなプログラムも、真剣に取り組む。むしろ、真剣に遊ぶ。

他の参加者たちのこの態度に自分も影響され、中途半端な参加で企業戦士たちに置いてけぼりされないよう、必死に遊びに加わりました。


かくして、筆者は通所開始後まもなくから完全に無遅刻無欠勤(?)となり、さらには「あれ?僕、週5日8時間働いても平気なのでは....?」という感覚が持てるようになりました。

そしてその後本当に就職し、このデイケアを退所しました。


なお、いまでも、あの傷ついた企業戦士たちの【真剣に遊ぶ】という態度は筆者の心に刻まれており、友人と遊ぶときや自分の子どもと遊ぶときの心がけとして活かされています。

帰ってきたひきこもり

不登校・留年・中退・長期ひきこもりを経て、35歳で準公務員に受かり、二児の父になったはなし。